2023.09.06

浜名高校 定時制 2学期始業式に寄せて

令和5年度2学期始業式に寄せて

 夏休み期間中、私は夏の甲子園大会で昨夏優勝、今夏準優勝に輝いた仙台育英学園高等学校の須江航監督の講演をうかがう機会を得ました。須江監督は、昨年の優勝インタビューで「青春って密」という言葉を発して時の人となり、今年は敗戦の弁で「人生は敗者復活戦」という名言を残しました。今日は、須江監督の講演の中から、皆さんにお伝えしたいメッセージを紹介したいと思います。

 須江さんは、埼玉県の山間部の集落で育ち、子どものころから野球に親しみ、中学校時代には甲子園で活躍することを夢見る少年となりました。高校に進学するにあたり、宮城県の全国大会が東北高校と仙台育英高校に集中していることに注目し、自ら仙台育英高校への進学を決めて野球部に入部しました。しかしながら、入部後2日と掛からないうちに部員と自分とのレベルに大きな開きがあることに気付きました。自分の記憶では、自身がプレーヤーであると意識したのは高校3年間で僅か1回だけだったそうです。残りの期間は、グランドマネージャーと用具係として送りました。須江さんは、この挫折感がその後の人生に活きたと話されました。

 須江さんが野球部の監督となり、指導上大切にしたことは言葉です。選手としてフィールドに立っていない彼は、技術論や経験論で指導しても通じないと考え、部員たちに「伝わる言葉」で話すことを心掛けたそうです。「伝わる言葉」とは、相手が聞きたいことや相手が求めている内容であります。人は欲しいものしか欲しがらないので、とにかく選手の話に耳を傾けて彼らが求めるものを見つけ出すことに専心しました。

 そんな毎日の中で、須江監督は、選手が成長していく姿を実見することを通じて人が成長する要素を見出していきました。ここでは3つ紹介します。第1は「情熱と素直さと粘り強さと」です。素直さとは、柔軟性です。そして柔軟性とは、意見や考えの違いを面白いと思えることです。粘り強さとは、成長が見えるまでやり切ろうとする持久力のことです。そして最後は情熱=気合です。第2は「挫折や失敗から学ぼうとする気持ち」です。学ぶとは、自身の生活の角度を1度返る取り組みをすることです。第3は「短所に丁寧に対処すること」です。丁寧な対処とは自己を理解することです。

 この須江監督の講演をうかがった後、私は生徒の皆さんの顔が浮かんできました。なぜなら、皆さんがここで紹介した成長の3要素を、すでに実践しているのではないかと感じたからです。そう感じたきっかけは、1学期に行われた校内生活体験文発表会です。ある3年生の生徒は、学業とアルバイトの両立を通じて「情熱と素直さと粘り強さと」を身に付け、自身の成長を実感しています。ある4年生の生徒は、3年次の苦しい日常生活の中で挫折を感じていましたが、自身の生活の角度を1度(1度以上かも知れませんが)変える取り組みをする中で、現在は卒業後の自分をしっかりと見据えています。もちろん、その過程には周囲のクラスメイト、先輩、先生方の助言や支えがあったことを忘れることはできません。例に挙げた二人だけではなく、ここにいる全ての皆さんが、事の大小はあっても先ほどの3つの要素を実践し、日々成長しながら今ここにいると私は確信しています。