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浜名高校 令和4年度卒業式に寄せて
2月28日(火)に令和4年度卒業式を挙行しました。式辞の一部を抜粋して紹介します。
本校が所在する天竜川右岸の地には、小林駅から芝本駅付近に掛けて弥生から平安時代まで連綿と続く大集落が存在し、その規模は登呂遺跡を凌ぐものだと判明しています。そして、その周囲の河岸段丘や山と山の谷間には多数の古墳が分布しています。全国的にも珍しい平野や谷間に立地をしているこれらの古墳は、丸石を積み上げたもの、丁寧な加工を施した石室や重要文化財指定の副葬品を有するもの等があり、約1600年前には、当地に朝鮮半島に起源をもつ渡来系の知識層や技術者が住み着いていたと愚考しています。彼らの高度な治水や土木技術は、「暴れ天竜」の氾濫を制御し、本校所在地の地名の由来となった「美薗」と呼ばれる伊勢神宮の荘園となるまでに豊かな耕地を育て上げました。こうした人々の自然災害に屈しない精神や高度な知識・技術に裏打ちされた研究心を有する風土は、知らず知らずのうちに皆さんの体内に組み込まれ、「高き」を目指す挑戦心、根拠に基づく確かな学力を生み、人としての成長を促す血脈になったものと考えています。
思えば、皆さんが本校で過ごした3年の歳月は、まさに新型コロナウィルス感染症拡大との闘いの日々だったと思います。入学式直後から1か月半の長きにわたる休校措置、そして学校再開後も様々な制約の中で学校生活を送ることを余儀なくされました。そのような中で皆さんの営みを振り返ると、友人と歓談しながらの昼食を我慢して黙食を徹底する姿、できる活動を模索した学校祭で2年ぶりの観覧者に一生懸命接遇する姿、感染対策に配慮したスポーツフェスティバルで精一杯競い合う姿、生徒会活動の中で密を避けるためICT機器を駆使する姿、限られた条件の中で日々の部活動に取り組む姿、新たな入試制度と向き合い悪戦苦闘しながら自分の道を切り開こうとする姿など、下級生の範となる姿勢を多方面で見ることができました。こうした取り組みを通じ、皆さんは、コロナの感染拡大を最小限に食い止めて学校生活を継続するとともに、充実した学びの成果の現出と学校行事の活性化を実現しました。皆さんの頑張りに対して、この晴れの日に、改めて私はお礼と拍手を送りたいと思います。
ところで、広く社会に目を向ければ、新型コロナウィルスが感染拡大する以前から、社会の持続性を妨げる課題があることは十分認識されていました。世界レベルでいえば、地球の温暖化の危険性は1980年代には広く知られていましたし、地域レベルでいえば、静岡県の人口減少は2007年からすでに始まっていました。そうした中、今回のパンデミックは、社会・経済活動が一時、完全にストップするという前代未聞の事態を発生させ、これにより私達は、国や地域社会が世界と密接につながっており、「持続可能でない状態」が現実に起こりうることを実体験を通して学びました。さらに、ロシアの軍事侵攻がエネルギー・食糧価格の高騰を引き起こし、世界の地政学的リスクが地域経済の不確実性を高めていることも実感させられました。私たちは、地球環境の保全や人々の生命・衛生環境の維持、さらには地政学的なリスクへの対応など、持続可能な社会・経済を真剣に考えて構築していく必要性を、改めて強く認識させられたといえるでしょう。『静岡県経済白書2023』によれば、こうした状況を踏まえ、今、社会に求められていることは、柔軟で復元力があるレジリエントな産業や社会構造の構築、社会の変化に対応できるイノベーション力がある組織、インフラなどの必要適量化を図るストック志向による地域づくりだと述べられています。 こうした難しい社会情勢の中、先に示した先達のDNAを受け継ぎ、本校での3年間の学びを経た皆さんなら、柔らかな発想と変革する勇気を持ってより良い未来を拓き、社会に貢献できる人材となることを確信しています。
結びに、本校の校歌を作詞した詩人の三好達治氏は、終戦後の焼け野原の中で世に送り出した「春の日の感想」で、次のように詠っています。
かくて新しい季節ははじまつた かくて新しい出発の帆布は高くかかげられた
人はいふ日の下に新しきなし われはこたふ日の下に古きこそなし
そこには、暗い戦時下が終わり、明るい新しい時代への希望が込められています。どうか皆さんも未来に希望を持ち、前を向いて粘り強く生き抜いていってください。皆さんの人生に幸多からんことを願い、式辞といたします。