過去の
尚友会ブログ
Archive
Archive
浜名高校 定時制 卒業式に寄せて
3月16日(木)に令和4年度卒業式を挙行しました。式辞の一部を抜粋して紹介します。
本校が所在する天竜川右岸の地には、小林駅から芝本駅付近に掛けて弥生から平安時代まで連綿と続く大集落が存在し、その規模は登呂遺跡を凌ぐものだと判明しています。そして、その周囲の河岸段丘や山と山の谷間(たにあい)には多数の古墳が分布しています。全国的にも珍しい平野や谷間に立地をしているこれらの古墳は、丸石を積み上げたもの、丁寧な加工を施した石室や重要文化財指定の副葬品を有するもの等があり、約1600年前には、当地に朝鮮半島に起源をもつ渡来系の知識層や技術者が住み着き、在地の住民とともに共存していたと愚考しています。彼らは争うことなく共に手を携え、高度な治水や土木技術を駆使して「暴れ天竜」の氾濫を制御し、本校所在地の地名の由来となった「美薗」と呼ばれる伊勢神宮の荘園となるまでに豊かな耕地を育て上げました。こうした出自や文化の違いに寛容な精神、新たな知識を真摯に学ぼうとする向学心を有する風土は、知らず知らずのうちに皆さんの体内に組み込まれ、「多様な個性・価値観を認め合う精神」、「将来に結びつく生き抜く力」「人との出会いや繋がりを大切にする心」を生み、人としての成長を促す血脈になったものと考えています。
思えば、皆さんが本校で過ごした歳月は、まさに新型コロナウィルス感染症拡大との闘いの日々だったと思います。戦時中でさえなかった令和2年3月からの2か月半の長きにわたる休校措置、そして学校再開後も様々な制約の中で学校生活を送ることを余儀なくされました。そのような中で皆さんの営みを振り返ると、単位習得のため真剣に定期テストに臨む姿、辛いと言いつつ精一杯シャトルランに取り組む姿、マスク越しの友人の表情をうかがいながら歓談する姿、これまでの生活を振り返り自分の言葉で発表する姿、仲間と笑いながらボーリングに興じる姿、自らの苦悩を教職員に切々と語る姿、慣れない面接練習に緊張した面持ちで受け答えをしている姿、校長室で一人ひとり自分の思いを語ってくれた姿などを通じて、皆さんが本校で過ごす時間を本当に大切にしていることを実感しました。併せて、本校定時制の存在意義を私に改めて気付かせてくれました。皆さんの頑張りに対して、この晴れの日にお礼と拍手を送りたいと思います。
ところで、広く社会に目を向ければ、新型コロナウィルスが感染拡大する以前から、社会の持続性を妨げる課題があることは十分認識されていました。世界レベルでいえば、地球の温暖化の危険性は1980年代には広く知られていましたし、地域レベルでいえば、静岡県の人口減少は2007年からすでに始まっていました。そうした中、今回のパンデミックは、社会・経済活動が一時、完全にストップするという前代未聞の事態を発生させ、これにより私達は、国や地域社会が世界と密接につながっており、「持続可能でない状態」が現実に起こりうることを実体験を通して学びました。さらに、ロシアの軍事侵攻がエネルギー・食糧価格の高騰を引き起こし、世界の地政学的リスクが地域経済の不確実性を高めていることも実感させられました。私たちは、地球環境の保全や人々の生命・衛生環境の維持、さらには地政学的なリスクへの対応など、持続可能な社会・経済を真剣に考えて構築していく必要性を、改めて強く認識させられたといえるでしょう。『静岡県経済白書2023』によれば、こうした状況を踏まえ、今、社会に求められていることは、柔軟で復元力があるレジリエントな産業や社会構造の構築、社会の変化に対応できるイノベーション力がある組織、インフラなどの必要適量化を図るストック志向による地域づくりだと述べられています。こうした難しい社会情勢の中、先に示した先達(せんだち)のDNAを受け継ぎ、本校での学びを経た皆さんなら、異なる考え方や行動に寛容でありつつ、柔らかな発想と困難に屈せず前向きに取り組む姿勢を持ってより良い未来を拓き、社会に参画できる人材となることを確信しています。
結びに、本校の校歌を作詞した詩人の三好達治氏は、終戦後の焼け野原の中で世に送り出した「春の日の感想」で、次のように詠っています
かくて新しい季節ははじまつた
かくて新しい出発の帆布は高くかかげられた
人はいふ日の下に新しきなし
われはこたふ日の下に古きこそなし
そこには、暗い戦時下が終わり、明るい新しい時代への希望が込められています。どうか皆さんも未来に希望を持ち、前を向いて粘り強く生き抜いていってください。皆さんの人生に幸多からんことを願い、式辞といたします。