2023.03.15

浜名高校 史学部 中日新聞3月14日朝刊


 お金を貸してくれる上に、担保として持病を持ち去ってくれる神様−。浜松市天竜区二俣町にある「金貸(かねかし)水神社」について、浜名高校の史学部員が研究し、成果を発表した。これを機に案内看板も設置されるなど、ユニークな神社を広くPRしようと氏子らが動き出している。 (中日新聞:野瀬井寛)

 金貸水神社は椎(しい)ケ脇神社の末社で、天竜川の脇に立つ。言い伝えでは1499年、山崩れで水神社が川に流された際、一人の船頭が泳いで引き上げたが、無理がたたって持病が悪化。そのため水神が「病気を質に借用証文を書きなさい」と夢の中で告げ、病を癒やしたとされている。
 実際に金銭を借りることはできないが、現在も参拝者は「返済できぬ場合は私の病気を質といたします」と記した借用書を神前に供え、病気平癒を祈る。
 「さすがに都合が良すぎる」「病気を治すのに貸し借りが必要なのは不自然」。史学部部長の玉ノ木梓純(あずみ)さん(二年)は、地元の伝説を集めた本で水神社を知り、率直に疑問を抱いた。同級生の成瀬かなめさんと昨年冬から文献調査や地元関係者への取材を進めてきた。一年生4人も加わり、昨年11月の県高等学校総合文化祭で発表した。
 部員たちは、金貸の伝説が江戸時代前期の史料に書かれていないことに着目。伝説が後世、二俣で盛んになった無尽講や、明応地震の記憶と結び付いて生まれた可能性を指摘した。
 金貸水神社は地元では単に「水神さま」と呼ばれ、金貸伝説はあまり意識されていなかったという。部員たちに触発され、椎ケ脇神社は金貸水神社の案内看板を新たに設置した。氏子総代の鈴木悟さん(71)は「全国でも他に見られない神社。病気に苦しむ人のよりどころになれば」と願う。
 11日、部員らは同区二俣町を訪れ、ボランティアガイドらの前で研究成果を説明した。完成した看板を見た玉ノ木さんは「一冊の本から始まった研究が大きな動きになって、やってよかったと思う」と感慨を語り「知名度が上がることで、史料や伝承が将来に残っていくと良い」と願った。