2018.03.20

平成29年度 定時制課程 第68回 卒業証書授与式


平成二十九年度 定時制課程 第六十八回 卒業証書授与式 式辞
 桜の枝につぼみが顔を出し、本格的な春の訪れを感じる今日の佳き日、ここに多数のご来賓、保護者の皆様をお迎えして、静岡県立浜名高等学校 定時制課程 第六十八回 卒業証書授与式を挙行できますことは、卒業生はもとより、在校生、教職員にとりましても大きな喜びでございます。本日、ご臨席を賜りました皆様方には、日頃から本校の教育に深いご理解と温かいご支援をいただき、さらには巣立ちゆく卒業生の門出に華を添えていただきましたこと、心からお礼を申し上げます。
 ただ今、卒業証書を授与しました 二十四 名の卒業生の皆さん、卒業おめでとうございます。思い起こせば皆さんは、それぞれ、四年前、三年前、二年前、高い志をもち、夢と希望に胸を膨らませてこの浜名高校の門をくぐりました。以来今日のこの日まで、たゆまぬ努力を積み重ねて本校所定の教育課程を修了し、本日めでたく卒業の日を迎えることとなりました。今振り返って見れば、二十四人、それぞれ、ここまでの道のりは、決して平坦なものではなかったものと思います。皆さんが、時に困難を克服しながらも、強くたくましい意志をもって、勉学に励み続け、自らの力で立派に本校の卒業証書を手にしたことに対して、改めて心から敬意と賞賛の拍手を送ります。
 さて、卒業生の皆さんとは、本年一月から校長室で個人面接を行いましたね。授業が始まる前の限られた時間でしたが、私にとっては、皆さん一人ひとりを知る上での大切な時間でした。ありがとう。皆さんは、普段接する機会の少ない私に対して、高校生活での楽しかった思い出や将来の夢、そして苦労話、また多くの人が入学前の自分自身の経験を包み隠さず話してくれました。
 この場をお借りしてその一部を紹介しますと、
 ある人は、「小学校や中学校では欠席が多かったのですが、定時制に入学して学校生活のリズムがつかめました。ここまでほとんど休まずに来ています。いろいろなことがあったけど、定時制は自分にあっていました。おかげで入社試験にも合格できました。四月から正規社員として働くのが楽しみです。同級生や先生方に感謝しています。」と胸を張って話してくれました。私はその場で、『志を立てるのに、遅すぎるということはない』という、私の好きな格言を思い浮かべました。
 またある人は、「毎日朝8時から夕方5時まで製造工場で働いています。仕事が終わってからの夜の授業は、先生方には申し訳ないことですけど、正直、眠気との闘いでした。卒業後は正規社員になれるようにがんばります。」と、その日も疲れた様子にもかかわらず、笑顔を浮かべながら話してくれました。本校の校訓である、『志しはるかなれこそ 若き日をかくこそ惜しめ』が指し示す姿そのものだと思いました。
 さらには、「途中で嫌なことがあって短気を起こしてしまい、本気で学校を辞めようとしたことがありましたが、同級生や先輩が話を聴いてくれ、説得してくれたおかげで今があるんです。その人たちには本当に感謝しています。」としみじみと語ってくれた人がいました。夜間定時制で学ぶもの同士の強い絆の存在を思い知らされました。
 そして中には、「日本に来たばかりで何も分からないでいたころ、小学校や中学校の教室で、ずいぶんいじめやからかいを受けました。だから、それを克服するために、必死になって日本語を勉強しました。でも、あのときいじめた人たちを恨んではいません。日本で自分の仕事を探して頑張ります。」という話を、何人もの人から聞きました。その場で思わず日本人を代表して「ごめんね」と謝らせてもらったこともありました。と同時に、本校に、そういう経験をしながらも向上心を持って自らの学びを続けている生徒さんたちがいることを、校長として大変誇らしく思いました。
 そして、何よりも多くの人が口にしていたのは、『3年生の修学旅行が終わった頃からクラスがまとまりました。修学旅行で同じ宿に皆で泊まったことは本当に楽しい思い出でした。でも、そこから、特に4年生になってからは、月日が経つのが本当に早かったです。だから、最近はクラスの中でお互いに、「なんだかこのまま卒業したくないよね。」という言葉がよく出るんです。』というものでした。この浜名高校の夜間定時制課程で学んだものにしか味わえない、学校生活に対する共通の思いと、卒業を前にした充実感がひしひしと伝わってくるようでした。
 皆さんにはぜひ、今紹介したような、一人ひとりの胸の中に大事にしまってあるであろう、大切な仲間や信頼できる先生方と過ごした、高校生活での貴重な思い出を、末永く自らの誇りとしていただきたいと思います。間違いなく、皆さんの一生の宝となるものです。
 ところで皆さんは、『疾風に勁草を知る』という格言を知っていますか。この格言は『後漢書』という中国の古い書物の中にあるもので、大変有名なものです。今日は、その意味を紹介することで、卒業する皆さんへのはなむけの言葉としたいと思います。『疾風に勁草を知る』とは、例えば、見渡す限り荒涼とした草原を思い浮かべてください。その草原を吹く風が、そよ風程度であれば、そこに生えているどの草も心地よく風に揺らいではいますが、一旦、嵐のような強風や突風、烈風が吹くと、そのほとんどの草は折れ曲がったり、時には根こそぎ吹き飛ばされてしまったりします。けれども、その中でも、大地にしっかりと根を張り、芯がしっかりした勁い草は、その突風、烈風にも耐えて、凛とした姿を保つものだという意味です。転じて、人間も同様に、困難に遭ってはじめてその人間の本当の価値、本当の勁さ、逞しさが分かってくる、もっといえば、困難がその人間の奥底に秘める意志や信念の堅さを試し、明らかにするという意味です。卒業生のみなさんは、本校での高校生活で、勁草、つまり激しく強い風にも負けない勁い草となるべき力を十分身に着けたことと思います。このことを自らの財産、強み、誇りとして、卒業後は、それぞれの進む道の中で、疾風にその存在が輝く勁草、言い換えれば、困難に立ち向かうほどに人としての輝きが増す、そういう人になっていただきたいと思います。
 終わりになりましたが、保護者の皆様方に改めてお祝いとお礼を申し上げます。本日はお子様のご卒業、誠におめでとうございます。ここまでお子様の成長を願って支えてこられた皆様にはさぞや苦労も多かったことでしょう。今日の佳き日を迎え、立派に成長されたお子様の姿に感慨もひとしおのことと存じます。教職員一同、心よりお慶びを申し上げます。今日まで本校にお寄せいただきましたご支援、ご協力に深く感謝を申し上げます。また本日、ご多用の中、ご臨席を賜りました、ご来賓の皆様には、重ねてお礼を申し上げますとともに、今後とも本校定時制課程の教育に益々のお力添えを賜りますようお願いを申し上げます。そして、何よりも、二十四名の卒業生の皆さんの、その前途が、洋々として、幸多からんことを祈念いたしまして、式辞といたします。_
平成三十年三月十六日  
静岡県立浜名高等学校  校長 加藤 洋一